イタリア・フィレンツェ「パラティーナ美術館 Galleria Palatina」。
かつてメディチ家が暮らしたピッティ宮殿2階が展示室として一般公開されています。800点以上の絵画が壁の装飾の一部のように展示されており圧巻の作品数。
なかでもラファエロやティツィアーノといったルネサンス画家たちの優れた作品を所蔵していることで有名なんです。特にラファエロの初期作品から後期作品まで1つの美術館で展示している点はとても興味深いですね。ラファエロ好きの巡礼地になっているらしいのですが、なるほどと納得できます。筆致をたどれるほどの近距離でいくつもの作品を鑑賞できるのは、ファンならずとも贅沢そのもの。この記事は「パラティーナ美術館」と、共通券で入場できる「衣装博物館」の鑑賞レポートです。
午前9時ピッティ宮殿に到着
パラティーナ美術館のオープン時間は8時15分。本当は開館と同時に入場したかった・・・のですが、寝坊してしまい9時到着。とはいえ、朝のピッティ宮殿周辺は閑散としており、順番待ちの心配はなし。良かった。ただし、季節や時間帯によっては混雑することもあるようです。夏のバカンスシーズンに訪れる方は予約しておいた方が安心かもしれません。
パラティーナ美術館の入場券(共通券)を購入
早速、チケットを購入します。窓口はピッティ宮殿正面右手。場所はすぐにわかると思います。赤い幕が壁に下がっています。私の他に1組だけ窓口でチケットを買っていました。
購入したチケットはピッティ宮(Palazzo Pitti)の共通チケット。「すべて見ようと思うと丸1日でも足りないくらいですよね。今回は、「パラティーナ美術館」と「衣装博物館」に限定して見学しました。
ピッティ宮(Palazzo Pitti)への入場券は、以下6カ所の共通券となっています。
- パラティーナ美術館(Galleria Palatina)
- 近代美術館(Galleria d’Arte Moderna)
- 衣装博物館(Museo della Moda e del Costume)※
- 大公の宝物庫(銀器博物館)(Tesoro dei Granduchi)
- ロシア・イコン博物館(Museo delle Icone Russe)
- パラティーナ礼拝堂(Cappella Palatina)
※衣装博物館は休業中ですが、2024年7月16日~12月31日までは開館するようです。
⇒The Museum of Costume and Fashion completely reopened with a new arrangement
パラティーナ美術館へ入館
ピッティ宮殿正面中央の出入り口を抜け美術館へ。入口の扉の上方には「Galleria Palatina」と書いてあります。リュックサックなどの大きな荷物がある方やトイレに行っておきたい方は、この入口を抜ける前に、地下のロッカールームとトイレへ向かいましょう。場所がわからないときは係員に聞けばすぐに教えてくれます。
入口のブックショップでガイドブック購入可能
階段を上がり2階へ行くと、まずブックショップがあります。必要な方はここで日本語のガイドブックを買ってから展示室をまわると良いかもしれません。また、日本語のオーディオガイドもあります。
「音楽の間 Sala della Musica」までは軽く鑑賞
パラティーナ美術館は30もの展示室に作品が並んでいます。一部屋ずつ丁寧に見て回ると時間がいくらあっても足りないです。というわけで、「音楽の間」(第15室)までは軽く鑑賞しながら進みました。ちなみに、ここ「音楽の間」は1814年以降、ロレーヌ家が音楽を楽しむための部屋になったことから「音楽の間 Sala della Musica」と呼ばれています。
「プロメテウスの間 Sala di Prometeo」
主要な作品は「プロメテウスの間」(第17室)以降に展示されています。まずは、ボッティチェッリの描いた肖像画から。本当にボッティチェッリの絵??と疑いたくなるような雰囲気の肖像画です。当初は別の画家の絵とされていたようですが、ピッティ宮殿の文書にボッティチェッリ本人の作品であることが記録されていたのだとか(左:「男の肖像」1470年・26歳頃の作品)。右は「美しきシモネッタ」(1485年頃の作品)。
ボッティチェッリの師匠であるフィリッポ・リッピ。彼の作品もここプロメテウスの間にあります。「聖母子と聖母の物語」。背景に描かれているのは聖母マリアの両親。前景は聖母マリアと子イエス。私は”トンド”と呼ばれる円形の絵がなぜかすごく気になります。題材として描かれている聖母子像に何とも言えず魅せられてしまうんですね。円形には不思議な心理効果がありますよね。
「ジュピター教育の間 Sala dell'Educazione di Giove」
つづいて「ジュピター教育の間」(第24室)。カラヴァッジョ作「眠るキューピッド」。1608年にマルタ島で制作されました。カラヴァッジョが殺人事件を起こしローマから逃走している時に描いたものなんですよね。どことなく妖しい雰囲気がいかにもカラヴァッジョらしいです。
「イリアスの間 Sala dell' Iliade」
「イリアスの間」(第27室)。天井画のモチーフが古代ギリシャ時代の叙事詩「イリアス」であることからこの名で呼ばれています。中央にはオリンポスの神々に囲まれたゼウスが描かれています。
こちらの部屋で鑑賞できるのがラファエッロ作「女性の肖像(身重の女)」。1506年頃に描かれた初期作品です。
「サトゥルヌスの間 Sala di Saturno」
そして、いよいよパラティーナ美術館でもっとも人気の部屋「サトゥルヌスの間」へ。7つのラファエッロ作品が展示されています。私が訪れた日には残念ながら2作品「エゼキエルの幻視」「トンマーゾインギラーミの肖像」がありませんでした。たぶん貸し出し中だったのかな。以前、「エゼキエルの幻視」は東京の国立西洋美術館にも来ていましたからね。その時に実物を見たことはあるのですが、やはりパラティーナ美術館で見たかったな。
さて、パラティーナ美術館で必見の作品といえば、なんといってもラファエッロの聖母子画でしょう。「大公の聖母」(1506年)。しっとりとした静けさが漂っていますね。聖母子を包み込む薄いヴェールのような光の表現は、ラファエッロがレオナルド・ダ・ヴィンチから学んだ技法なんだそうです。かつてのトスカーナ大公がこの絵を気に入り常に身近に置いておいたことから”大公の聖母 Madonna del Granduca”と呼ばれています。
「小椅子の聖母」(1516年)。ラファエッロが活動の拠点をフィレンツェからローマに移したあとに描かれた作品です。ふっくらとした体つきの聖母マリアと幼児キリストが体を寄せ合う姿は温かい雰囲気でいっぱいです。神聖さというよりは、親近感を感じますよね。上記の「大公の聖母」に比べ、ラファエッロらしい画風がしっかりと見てとれます。
1505年頃に描かれた夫婦一対の肖像画です。左「アニョロ・ドーニの肖像」、右「マッダレーナ・ストロッツィの肖像」。左の男性って、ラファエッロの自画像に似ていませんか?当時の若い男性は黒いベレー風の帽子を被って髪を垂らしていたのかな。ちなみに、このご夫妻は美術収集家で、ラファエッロにいくつかの作品を依頼した人物としても知られています。お金持ちだったんですね。
「天蓋の聖母」(1507年頃)。高さ3メートルに近い大作です。教会の祭壇画として依頼されたものですが、残念ながら未完です。とはいえ、すべてラファエッロ自身が描いたものとされています。奥行や動きが表現されている点がそれまでの作品とは異なり、初期の集大成と称されています。
「ジュピターの間 Sala di Giove」
「ジュピターの間」(第29室)にはラファエッロ作「女性の肖像(ヴェールの女)」(1516年頃)があります。ルネサンス肖像画の最高峰といわれる作品です。肌の質感やふくよかさが生き生きとした女性を描き出していますよね。
「マルスの間 Sala di Marte」
「マルスの間」(第30室)はかつて玉座の控えの間として使われた部屋です。天井にはメディチ家の紋章が大きく描かれています。このような天井画を目にすると、フィレンツェは永遠にメディチ家の町なんだなと思えます。メディチ家が建てた教会・建物、収集した美術品がフィレンツェを今もなお潤わせていることは間違いないですからね!
さて、「マルスの間」の見どころのひとつ、ルーベンス作「4人の哲学者」(1611年頃)。一番左に画家自身、その右隣に兄が描かれています。かつての知識人サークルを意味しているのだとか。ルーベンスというとフランドルの画家って思っていたのですが、イタリアに暮らしていたこともあるんですね(wikipedia情報)。
もつひとつの傑作、ルーベンス作「戦争の結果」(1637年頃)。当時勃発していた三十年戦争の悲惨さを伝える寓意画です。ローマ神話の神々をモデルとして描いています。兜(かぶと)を被った中央の男性が軍神マルス。隣の女性、愛の女神ヴィーナスの腕を振り払いながら戦禍へ猛進しています。
「君主の居室 Appartamenti Monumentali」
パラティーナ美術館の順路に従うと、最後には「君主の居室」へたどり着きます。ピッティ宮殿2階の中庭を挟んだ右側に位置する一連の部屋です。かつては、歴代トスカーナ大公や国王ヴィットリオ・エマヌエーレ2世が暮らした場所。壁や天井、調度品などすべてが豪華絢爛。
西洋インテリアの歴史が一堂に会したような居室に胸が躍りました(私は趣味でインテリコーディネーターの資格をもっています。資格試験の教科書に出てきたようなデザインがいっぱいでした☆)。新古典様式、バロック様式、ロココ様式。雑然としているようでバランスよく配置されている家具たち。イタリア人の美的感覚は本当にすごいなぁっと思います。日本人も昔は素晴らしい美的感覚を持っていたはずなのに。今は”合理性”や”経済性”を重視し過ぎて美しくあることを忘れてしまっている気がします。
「衣装博物館 Museo della Moda a del Costume」
パラティーナ美術館の鑑賞で約2時間半。お昼までまで少し時間があったので「衣装博物館」へ足を運びました。ピッティ宮殿の右翼に位置しています(ピッティ宮殿内部にいると方向感覚がわからなくなります。場所がわからない方は係員に聞いてみましょう)。
主に女性の服装の歴史が、実例とともに展示してあります。私が訪れたときには現代的なドレスが数多く並んでしました。とはいえ一部には現存している中世時代の服装もあり、とても興味深かったです(部屋が暗くガラス越しだったので写真が上手く撮れませんでした。ごめんなさい)。「衣装博物館」は30分くらいで見学しました。
パラティーナ美術館鑑賞に役立つ本・ガイドブック
「予習をしておきたい!」という勉強熱心な方のためにおすすめ3冊を紹介しますね!参考にどうぞ。
1.地球の歩き方フィレンツェとトスカーナ
チケット窓口の位置関係や美術館の見どころがしっかりと書いてあります。1冊持っておくと便利です。私は毎年買っています。ヘビーユーザーです。
2.NHK世界美術館紀行(3)
特にラファエロの絵画について背景も含めて紹介されています。「パラティーナ美術館」だけでなく「ウフィッツィ美術館」や「ボルゲーゼ美術館」(ローマ)のガイドも掲載されています。サラッと読んでおくと各美術館の予習になりますよ。でも、古本しかないかもしれません。それでもよければ。
3.もっと知りたいラファエッロ~生涯と作品~
ラファエッロについて知っておきたいという方におすすめの1冊です。絵画の写真とともに解説が掲載されており、ラファエッロの生涯を通じた作品を知るのに役立ちます。こちらも古本しかないかもしれません。
最後に
冒頭にご紹介した通りパラティーナ美術館の入場券は共通チケットとなっています。お時間の許す方は「近代美術館」や「大公の宝物庫(旧銀器博物館)」にも足をのばしてみてくださいね。ピッティ宮殿内にはカフェテリアもあり簡単な食事もできます。私自身、次回フィレンツェを訪れた際には、ピッティ宮殿エリアを丸一日楽しもうと思っています。暖かい季節に行きたいなぁ♪
基本情報
パラティーナ美術館の基本情報はこちらの記事をどうぞ。
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