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【パルマ】サン・パウロの部屋 Camera di San Paolo

イタリア・パルマにある「サン・パオロの部屋(Camera di San Paolo)」を訪れました。パルマを訪れる観光客なら、必ずといっていいほど立ち寄る場所で、ガイドブックでも紹介されています。

もちろん、それだけでも十分に訪れる理由にはなるのですが、わたしがこの部屋を特に見てみたいと思ったのは、『美学への招待』という本で紹介されていたからです。

この部屋に一歩足を踏み入れたとたんに、誇張ではなく、わたくしは恍惚となりました。

出典:『美学への招待』(佐々木健一著・中公新書)

高名な学者さんが、この部屋を訪れて「恍惚とした」と語っていらっしゃるのですから、きっと特別な場所なのだろうと思いました。

ちょうどモデナへ行く予定を立てていたこともあり、同じエミリア・ロマーニャ州に位置するパルマの「サン・パオロの部屋(Camera di San Paolo)」を旅程に組み入れました。

「サン・パオロの部屋(Camera di San Paolo)」へ

「サン・パオロの部屋(Camera di San Paolo)」は、15世紀末に再建されたベネディクト会の旧女子修道院の中にあります。

場所は旧市街の中心で、パルマ大聖堂から徒歩5分ほどの距離です。

わたしが訪れたのは、11月の初めでした。午前中の、人通りが多くなる時間帯です。それでも、観光客の姿がまったく見えないので、「もしかして、この町で観光しているのはわたしたちだけなのでは?」と錯覚するほど、静かでした。

門を抜け、木々の植えられた小道を進んでいくと、チケット販売カウンターがありました。

チケットを購入し、いよいよ公開されている部屋へ入ります。

やはり、来訪者はわたしたち家族3人だけでした。申し訳ないような、ありがたいような、少し気恥ずかしい気持ちになりながら、鑑賞させていただきました。

女性の係員が一人、私たちについて、部屋から部屋へと先導してくださいました。

美術鑑賞の見どころとなる主要な部屋は2つですが、そのほかにも2つの部屋があり、全部で4つの部屋を巡ります。

アレッサンドロ・アラルディ Alessandro Araldi《最後の晩餐 Cenacolo》|前室・エントランス

1516年に描かれた、アレッサンドロ・アラルディの《最後の晩餐(Cenacolo)》です。

作品下の銘板には、ALESSANDRO ARALDI、1460年頃–1528年、CENACOLO、1516年と記されています。

アラルディが描いたこの作品は、ミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院にある、レオナルド・ダ・ヴィンチの《最後の晩餐》をもとにした模写です。

キリストの足元など、レオナルド・ダ・ヴィンチのオリジナルではすでに見られなくなった部分が描き残されており、貴重な複製のようです。

廊下を渡ります。

旧食堂 / 修道女たちの礼拝堂(Cappella delle Monache)

廊下の先に木彫の聖歌隊席が並ぶ広々とした部屋がありました。

ここは、かつて修道院の食堂として使われていた場所で、その後「修道女たちの礼拝堂(Cappella delle Monache)」へと改められたそうです。17世紀につくられたという木製の聖歌隊席が、部屋の両側に並んでいます。

壁に描かれていたのは、『聖ベネディクトゥスと聖スコラスティカの伝説の逸話(Episodi della leggenda dei Santi Benedetto e Scolastica)』。15世紀後半(1450〜1500年頃)に、パルマの画家ヤコポ・ロスキ(Jacopo Loschi)によって描かれたとされています。

テーブルを挟んで向かい合う、聖ベネディクトゥスとその妹・聖スコラスティカの食事の場面だそうです。

かつては食堂として使われていた部屋ということもあり、聖人たちの食事の場面が描かれているのが興味深いですね。

アラルディの間(Stanza dell'Araldi)

アレッサンドロ・アラルディ Alessandro Araldiが描いた天井画です(1514年制作)。

青地に燭台文様で装飾されたヴォールト天井があり、その周囲を円形画(トンド)、四角形の画面、半円(ルネット)が取り囲んでいます。それぞれには、旧約聖書と新約聖書の場面が描かれているそうです。

サン・パオロの部屋(Camera di San Paolo)/コレッジョの間(Camera del Correggio) / 修道院長の間(Camera della Badessa)

いよいよ「サン・パオロの部屋」へ入ります。別名、「コレッジョの間」や「修道院長の部屋」とも呼ばれるこの部屋は、修道院長ジョヴァンナ・ダ・ピアチェンツァの私的な居室として使われていました。

1519年、コレッジョによって天井と暖炉上の装飾が完成しました。

ひとを恍惚へと引き込むこの天井画のさまを、的確に捉えるような写真のアングルは、おそらくないと思います。写真を言葉で補い、イメージを形成して頂くより他にしようはないでしょう。

出典:『美学への招待』(佐々木健一著・中公新書)

本当に、この説明のとおりでした。

部屋のどの位置から撮影しても、天井画の立体感はもちろん、色彩や空間全体の印象まで伝えられるような写真を撮ることができませんでした。

装飾は、天井中央に描かれた修道院長の三日月を3つ組み合わせた紋章から始まり、そこから16の区画へと分かれています。

プットー(幼児姿の天使)たちが楕円形の開口部から顔をのぞかせ、狩猟を象徴する寓意的なモチーフをあらわしています。

16個の円形の開口部のそれぞれに対応して、16のルネットが設けられています。そこには神話上の人物がモノクロで描かれていますが、浅浮彫(レリーフ)のように見えます。

Dipingendo un berceau ad intrecci vegetali, Correggio annulla le cordonature dell'originale volta tardo gotica ad ombrello.

Lo spazio architettonico viene quindi annullato dallo spazio dipinto come i dettami filosofici della cultura neoplatonica suggerivano all'autore.

コレッジョは、植物が絡み合うあずまや状の天蓋(ベルソー)を描くことで、もともと存在していた後期ゴシック様式の傘状ヴォールトのリブ(骨組み)を消し去りました。

こうして、建築によって区切られていた空間は、絵画によって作り出された空間によって打ち消されます。これは、当時の作者たちに影響を与えていた新プラトン主義の哲学的思想が示唆する考え方でもありました。

出典:parmawelcom.com

暖炉の上にはディアナが描かれています。戦車を御しながら、まさに狩猟へ出発しようとしている姿です。

これは修道院長自身を象徴するものだそうです。

16世紀初頭のパルマで活躍したサン・パオロ女子修道院の修道院長ジョヴァンナは、パルマの文化・芸術を支えた女性として重要な人物。

典型的なキリスト教の宗教画ではなく、彼女の知性・教養・美意識を表現する装飾を自分の居室に作ることができる立場にあったようです。

その後、ジョヴァンナが亡くなると、この部屋は非公開となりました。

そして約250年後に再発見され、現在ではルネサンス美術を代表する傑作の一つとして、世界的に知られているそうです。

出典:bbcc.regione.emilia-romagna.it

最後に

余談ですが……残念ながらわたしは、『美学への招待』の著者が体験したような“恍惚”を味わえませんでした。

わたし自身の鈍い感受性のせいもあると思いますが、加えて、同行した6歳の息子が他に観覧者のいない暗い部屋を怖がり、順路を先へ先へと足早に進みたがったからです。

この部屋にゆっくりと留まり、自分の感覚と向き合う心の余裕がありませんでした。実に残念です。。。

子供の手が離れたら、次はひとりでぜひ再訪したいと思います。

その時はまた『美学への招待』を片手に。

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